黎明エスペランサ




―ゴ―




友の部屋を出て直ぐの所で、此方に向かって歩いて来る佐代野弥生さんを見つけた。


青ざめた顔。チームを組んでいる筈なのに、一人。

何かあったのだろうかという考えが一瞬脳裏を掠めたけど、

きっと彼女は友の部屋に行く途中なのだろう。だから大丈夫。

そう思う事にした。


でも、私は結局別の目的で彼女に声をかける事になる。


「今日は佐代野さん。他の2人が何処にいるのか教えて貰ってもよろしいですか?」


私に話しかけられるとは思っていなかったのか、彼女は驚き少し怯えながらも答えてくれた。


「えっと、昼食の途中だったので、2人はきっとダイニングにいると思います…」


確か彼女は天才料理人としてこの島に呼ばれていた筈。

一度その料理、味わってみたいなぁ。

なんて全然違う事を考え乍彼女にお礼を言い、歩を進めた。










ダイニングには彼女が言った通り、2人、姫菜真姫さんと逆木深夜さんがいた。


「あれ?どうしたの?」

真姫さんが問う。


食事は殆ど終わっているらしかった。

此れは好都合。


私は笑った。


「逆木さんに少々質問が…いえ、お話しがありまして」

質問をお話しと言い換えたのは、私の心が読めなくとも、

真姫さんには私が此処に来た理由がわかっているだろうと思ったから。


逆木さんは苦笑をしつつ承諾してくれた。



「ごめんなさい真姫さん。少し席を外して頂きたいのですが…」

そう告げると、

「わかった。外に出てるから、終わったら呼んでね」

と言って、真姫さんはダイニングから出て行った。




私は其れを見送り、無言で逆木さんの横の椅子に座った。

少し間を開けてから口を開く。


「貴方でしょう?」


彼は笑った儘、答えようとはしない。

「今のは言い方が悪かったです。だって貴方は飽く迄補助。

手を下しているのは彼女ですものね」



観念したのか彼は口を開いた。


「何処で気付いたんだい?」

「何処でと言われると困るんですけど…」


其処で一度言葉を切った。


「最初から1つ気配が多いなとは感じてました。

確信を持ったのは、壊せない筈のパソコンが壊れたって事と、

いーたんがかなみさんの時は寝袋だったのに、赤音さんの時は担架だったって言ったのと、

友が指に違和感があったって零したからですね」


大分省いたが問題は無いだろう。



「密室は…解けたのかい?」

彼は問う。


「解けて無いのに此処に来るなんて無謀な事はしませんよ。

ペンキの川は《因果の誤り》でしょう?

まぁ私はあの川を飛び越えられましたけど。

倉庫は死後硬直ですよね?

実際に死体を見た訳じゃないので断定は出来ませんけど」



彼は力なく笑った。


「流石だね。助手の君がそんなに凄いって事は、《哀川さん》とやらはもっと凄いのかい?」


「ええ。あの人は凄いですよ。色々な意味でね」


一息ついた。

こんなに一気に喋ったのは久しぶりな気がした。



「私はこんな事を話しに来たんじゃないんです」

彼に向き直った。




「私、貴方が大嫌いです。理由はわかりませんけど。

だから、本当に不本意なんですけど、貴方達に手を貸して差し上げます」


一呼吸置いた。


「全て、潤が来る前に終わらせます。これ以上殺させはしない。

でも、彼女がこの島を出てからやろうとしている事は止めません」


何だか疲れた。

嫌いな人を前に色々な事を喋ると云う行為は想像以上に肉体も精神も疲弊させるらしい。





「まさか、そんな事を言われるとは思わなかったな」

彼は相変わらず笑っていた。



「俺はてっきり自首をする様に言われるのかと思っていたんだけどね。

まさか其処まで見抜かれてるとは思わなかったよ」


でも、と彼は続ける。


「君には悪いんだけど、今更あいつが止まるとは思えないよ」



再び笑う。


「何だ。そんな事。私、力づくも嫌いじゃないから大丈夫ですよ」


彼は、少しだけ目を見開いた。


「君は、どうして其処までするんだい?俺の事嫌いなんだろう?」


「別に貴方の為じゃありません。皆に死んで欲しくないだけです。

イリアを始めとするこの館の人達には色々恩がありますし、

弥生さんの料理も食べてみたいですし、真姫さんともお話ししてみたい。

いーたんとは仲良くなれそうな気がするし、友に死なれたら、私生きていけません。

それにかなみさんの絵、好きなんです。だから…」

それじゃ不十分ですか?



「いいや。充分だよ」


彼はまた笑った。




私は席を立つ。

もう用事は済んだ。

後は、きっといーたんと友が如何にかしてくれる。

友は予定を守るだろうからね。

私は手伝いをそれとなくすればいい。





「有難う」


彼、逆木さんは言った。



「そんな言葉は不要です。だって、貴方の為じゃないんだから。

使えるものは遠慮なく使ったら如何ですか?

この私が直々に動くんですから」







私はダイニングを出た。

真姫さんはドアの横の壁に寄り掛かるようにして立っていた。


「随分とお待たせしてしまって済みません」


そう声をかけたら、チャシャ猫の様な笑みで返された。


「いいや。面白いものを聞かせて貰ったからね。これくらいは平気だよ。

それよりも、私と話してみたいって本当かい?」


「ええ。本当ですよ。でも、今は未だその時ではない。そうですよね?」

私も負けじと返す。


「確かに。そうだね」


「全てが終わった暁に、またお話しましょう。では失礼します」



私は部屋に戻るべく、歩き出した。





死んで欲しくないだけ






人を殺すのは悪い事ですなんて偽善的なことは言わないし、言えない。

でも、身近な人が殺されるのは避けたいと思ってしまうの。








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深夜さんとヒロインの掛け合いと、

真姫さんとの会話を書くのが楽しかったです























































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