08.ヒヤシンス
 

(ヒロイン視点) 念の為数日間検査入院をして、特に問題も無かったため本日退院の日を迎えた。 左馬刻さんが車でお迎えに来てくれ、兄の家に寄って荷物を引き上げてから二人の家に帰る。 一週間ちょっとしか離れていなかったはずなのに、家に着いた途端懐かしさで涙が込み上げてくる。 「…っ、ふ、ぇっ…」 「なーに泣いてんだよ」 「な、んか…っ安心、しちゃって…、」 左馬刻さんはぐずぐずと泣きじゃくる私の背中を摩りながら宥めてくれた。 涙が止まっても左馬刻さんにぴったりくっ付いて離れないでいると、左馬刻さんは「しょうがねえな」と言いながら私を抱き上げてリビングまで連れて行く。 左馬刻さんの肩口に顔を埋めながら、彼は本当にこれでいいのだろうかと一縷の不安が過ぎる。 「…左馬刻さん、あの……」 「ん?」 「本当によかったんですか…?」 「何がだよ」 「…子供、産むの………」 「ダメな訳ねぇだろうが。逆になんでダメだと思うんだよ」 そう聞き返され、若干返答に困る。 迷った挙句、「…だって、左馬刻さん…前に子供なんてどう扱ったらいいか分かんないって言ってたから……」と答えると左馬刻さんはバツの悪そうな顔をしながら「あー…」と漏らした。 「…俺の親父は俺だけじゃなくてお袋や合歓にも暴力振るうようなクソ野郎で、お袋はそんな親父から俺らを守るために親父を殺して自分も自殺した、ってのは前に言ったよな」 「…うん」 「…そんな親父の血を引いてる俺が、誰かの父親になる資格なんかねえって思ってた。結局は俺も力でしか解決できねえ。いくら親父のようになりたくないと思ったって、あんな親父を見て育ったからいずれは自分も同じ道を辿るんじゃねえかって不安でな…」 「…情けなくて悪いな」、そう語る左馬刻さんの手は小さく震えていた。 ああ、彼はずっと一人でこんな不安と闘っていたのか。 目の前にいるこの人が小さな子供のように思えて、私は堪らず左馬刻さんを抱き締めた。 「…?」 「大丈夫です、左馬刻さんは優しい人です。ちゃんと人を愛せる人です。私は左馬刻さんからたくさんの愛情を貰いました。誰かを好きになるのがこんなにも幸せだって、きっと左馬刻さんと出会わなかったら知らないままだった」 「………」 「左馬刻さんは強い人です。その力を、大切な人を守る為に使える人です。だから、絶対大丈夫」 「それに左馬刻さんは一人じゃない、私がずっと側にいますから」と彼の頭を撫でながら囁く。 暫しの沈黙の後、左馬刻さんは私の背中に腕を回して「…サンキュ、な」と呟いた。 「…腹、触っていいか」 「いいですけど、まだ全然動いたりしないですよ?」 「いーんだよ、触るぞ」 大きな手で包み込むように優しく私のお腹に触れる。 「…ココに、子供がいんだよな」 「うん、左馬刻さんと私の子です」 「まだこんないるのかいねえのかも分かんねえくらい小さいのに、これからどんどん大きくなるんだよな」 「そうですねぇ、楽しみですね」 慈しむように「…早く、会いてえな」と小さく零す左馬刻さんはもう既に父親の表情になっていた。 左馬刻さんとなら、これから先何があっても大丈夫。確信めいたものを感じながら「これからも二人で支え合って行きましょうね」と私のお腹に寄り添う彼の頭をそっと撫でた。

ヒヤシンス
「あなたとなら幸せ」

2019.07.24 完結

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